行政書士としての専門性に、FP（ファイナンシャルプランナー）資格を掛け合わせることで、業務の幅と顧客からの信頼を大きく伸ばすことができます。特に相続や事業承継といった分野では、ダブルライセンスが強力な差別化ポイントになります。
行政書士は法的な手続きの専門家ですが、顧客が抱える悩みは「法務」だけにとどまりません。資産運用、税金、老後資金、事業承継といったお金の問題は切り離せず、これらに対応できるかどうかが顧客満足度を左右します。FP資格を持つことで、相談から手続きまでを一貫して提供でき、「選ばれる専門家」へと近づけます。
たとえば相続案件。行政書士が遺言書や遺産分割協議書を作成し、同時にFPとして相続後のライフプランや資金計画を提案すれば、顧客は安心してすべてを任せられます。「法務×ファイナンス」により、単発で終わりがちな依頼を継続的な顧客関係に発展させ、安定収益にも直結します。
つまり、行政書士にとってFPは「取って損のない資格」です。この記事では、行政書士とFPの違い、ダブルライセンスの具体的なメリット、試験の難易度や学習の進め方を整理します。
行政書士とFPの役割と違い
行政書士とFPは、いずれも暮らしや事業に密接に関わる資格です。しかし、その役割や得意分野は大きく異なります。どちらも顧客の安心を支える存在ですが、視点が違うからこそ補完関係が生まれるのです。ここでは、行政書士とFPの役割を整理し、FP資格が行政書士の業務でどう活きるのかを解説します。
行政書士とFPの違い
行政書士とFP（ファイナンシャルプランナー）は、どちらも暮らしや事業に深く関わる資格ですが、役割は大きく異なります。行政書士は「法律に基づく手続きを代行する専門家」であり、FPは「お金に関する相談・助言を行う専門家」です。
行政書士は、行政書士法に基づく国家資格で、官公署に提出する各種申請書や契約書、遺言書、相続関係書類などの作成・代理を行います。いわゆる「業務独占資格」であり、資格を持つ人しか扱えない手続きが数多く存在します。法的に正確な文書を作成し、申請手続きを代理して顧客をサポートするのが行政書士の主な役割です。
一方でFPは、家計や資産に関する幅広い知識を活かし、ライフプランや資金計画、年金などお金についてアドバイスを行います。試験区分が3級から1級まであり、段階的に専門性を高められます。FP資格には「業務独占性」はありませんが、顧客の将来設計に寄り添う相談業務を行ううえで、専門知識の裏付けとして活用されます。
両者を比較すると、行政書士は「法的手続きに強い資格」、FPは「金融や資産管理に強い資格」と位置づけられます。
FP資格が役立ちそうな行政書士業務
行政書士の業務は、以下に示す書類の作成と代理、相談業務を行います。
- 官公署に提出する書類
- 権利義務に関する書類
- 事実証明に関する書類
たとえば、建設業や産業廃棄物業など業務に関する許認可や各種契約書があげられます。FPは「お金の計画」の専門家であるので、実務の中で重なり合う部分が少なくありません。許認可業務の顧客の多くは事業主や経営者であり、法人設立や営業許可の書類作成にとどまらず、資産形成や事業承継などの相談へ発展させられます。行政書士業務だけでは難しい「継続的な顧客関係」を築きやすくなるのは大きな強みです。
また、行政書士の相談業務の中には、遺言や贈与に関する問い合わせも含まれます。FPの知識があれば財産管理や税負担を踏まえた助言が可能であり、単なる書類作成代行に留まらないサービスを提供できます。顧客から見ても「相談から手続きまで1人の専門家に任せられる」ことは安心感につながり、競合との差別化要因となるでしょう。
相続業務を扱うなら絶対に損しない
行政書士の業務のなかでもFPと特に親和性が高い業務は、相続関係です。高齢化社会では、相続案件がさらに需要が高まると考えられます。遺言書の作成、相続人の調査、財産目録や相続関係図の作成、遺産分割協議書の作成など、相続業務で行政書士が担える範囲は広く、実際の手続きを進めるうえで欠かせない存在です。
ただし、行政書士ができるのはあくまで「書類の作成や手続きの代理」であり、相続人同士のトラブル解決や不動産登記といった分野は、弁護士や司法書士の業務となります。そのため、行政書士だけで対応できる範囲には限りがあるのも事実です。
ここでFPの知識が加わると、相続業務の付加価値が大きく広がります。相続後のライフプランを提案するなど、FPが得意とする分野で行政書士業務にプラスしたアドバイスが可能です。顧客にとっては、法律上の手続きと資産管理の相談を一度に済ませられるため、「ワンストップで解決できる安心感」が得られます。
行政書士が相続業務を担いながらFP資格を持っていると、スポット業務で終わりがちな相続案件を、長期的な顧客関係に発展させやすくなります。手続きが完了したあとも、資産運用や老後資金、保険の見直しといったテーマで継続的にサポートできるからです。
行政書士×FPダブルライセンスの5つのメリット
行政書士として実務を続けていると、「もっと相談の幅を広げたい」「顧客との継続的な関係を築きたい」と考える場面は少なくありません。そんなときに大きな武器になるのが、FPです。2つを併せ持つことで、他の専門家との差別化が可能です。ここでは、行政書士がFP資格をプラスすることで得られる5つの具体的なメリットを紹介します。
業務の幅が広がる
行政書士は申請書類の作成や手続きの代理など、法的な実務に強みがあります。ここにFPの視点を重ねると、相談の入口が一気に増えます。
たとえば許認可の依頼から、会社や家計の資金計画、保険の見直し、教育資金の試算、老後の生活設計といった話題へ自然に広げられます。書類作成だけでは拾い切れない課題を、数字に基づくアドバイスで補えるため、単発の依頼が継続的なサポートへと発展しやすくなります。
さらに、相続や贈与、事業承継など「法務×お金」が絡む場面では、論点を漏らさず整理できます。手続きとコンサルティングを一体で提案できる専門家は、他事務所との差別化につながり、紹介のきっかけも増えます。結果として、受任できる分野が広がり、季節要因に左右されにくい安定運営を目指せます。
相談から手続きまでワンストップで対応できる
依頼者は「誰に何を頼めば良いか」を迷いがちです。相談窓口が一つにまとまっていれば、情報の伝達ミスや手戻りが減り、時間と負担を抑えられます。
FPとしてお金に関する現状把握と将来の見通しを作り必要な手段を具体化し、行政書士として必要書類の作成や申請まで一貫して担う流れなら、進捗管理も一本化できます。たとえば家族構成や保有資産の整理、必要資金の試算、最適な制度選択の提案まで終えたうえで、申請や契約書の作成に移れば、意思決定の迷いが減ります。
行政書士業務とFP業務を別の担当に依頼するケースに比べ、説明のやり直しやデータの再収集が少なく心理的な不安も小さくなります。ワンストップは「早く、間違いなく、無駄なく」を実現する仕組みであり、結果として満足度の高さを提供できます。
顧客の信頼を得やすい
依頼者が専門家に求めるのは「確実に任せられる」という安心感ですが、行政書士とFPのダブルライセンスは専門性の証明となり、初めて会う段階から安心感を与えられます。
相続や事業承継といった特定分野に絞り込めば、FPの知識で数字面からアドバイスを行い、行政書士として手続きを確実に進めるという「専門性の掛け算」を実現できます。「浅く広く」ではなく「深く総合的に」サポートできることを示すため、顧客にとって大きな安心材料となります。
さらに、ワンストップで相談から手続きまで完結できることも信頼を高めるポイントです。FPとして将来設計を提案し、そのまま行政書士として必要な書類を作成できれば、顧客は複数の専門家に同じ内容を説明する必要がなくなります。無駄が減り、依頼の満足度が高まることで、「任せてよかった」という実感が生まれます。
キャリアップ・収入アップ
相続分野では、行政書士が遺言書や遺産分割協議書を作成し、FPが相続後の資金計画をアドバイスすることで、「法務＋ファイナンス」の一体型サービスが可能です。依頼者にとっては別々に専門家へ相談する手間が省け、依頼の満足度が上がるため、収益安定化にも直結します。
試験科目では相続や不動産分野で重複する部分が多いため、試験勉強で効率よくスキルを磨ける点も強みです。学習した内容を実務で活かせれば、自然とコンサルティング力が高まり、相続や資産管理に強い専門家としてのポジションを築けます。
FP資格を足掛かりに不動産や税務の知識を深めれば、行政書士業務でも都市計画法や農地法の許可手続きでより高単価で継続性のある案件にも対応可能です。結果として「依頼単価の上昇」「案件数の増加」「安定した顧客基盤」という好循環が生まれ、長期的なキャリアアップと収入アップにつながります。
他資格との親和性が高い
法務とファイナンスの橋渡しができると、他士業との連携がスムーズになります。税理士には税務申告、司法書士には登記、社会保険労務士には労務手続というように、役割を明確に分けながらも、前段の整理や後段のフォローを担えるため、チーム全体の生産性が上がります。
紹介の流れも作りやすく、依頼者に最適な専門家を案内できる体制は信頼の源になります。資格の追加取得を検討する際も、FPで身につけたヒアリング力と数量分析、行政書士で培った法令理解と文書作成が共通基盤として機能します。セミナーや記事執筆、企業研修といった発信活動とも相性が良く、認知の拡大と案件獲得の導線を整えやすい点も魅力です。連携を前提にした実務設計は、個人事務所でも大きな武器になります。
行政書士と比較したFP試験の難易度
FPに挑戦すべきか考えている方にとって、最も気になるのが難易度ではないでしょうか。行政書士は法律に特化した専門性の高い試験、FPは生活や資産に関わる幅広い分野を横断する試験という特徴があります。ここでは、難易度の具体的な比較と何級を取ればよいのかを解説します。
難易度の比較
行政書士試験は法令を深堀り、FP試験は家計全体を横断する知識を問われます。得意分野があると、試験の難易度の感じ方が変わりますが、おおむね以下のとおりです。
| 合格率の目安 | 学習時間の目安 | 特徴 | |
|---|---|---|---|
| FP3級 | 40～80％ | 30～100時間 | 入門レベル |
| FP2級 | 20～60％ | 150～300時間 | 実務に沿った深堀り |
| FP1級 | 10～20％ | 400～600時間 | 各分野を総合的に応用 |
| 行政書士 | 10～15％ | 600～1000時間 | 法令＋一般知識 |
FPの分野は、ライフプラン・保険・年金・税・不動産・相続に分かれます。行政書士は、憲法・民法・行政法など法律科目が中心です。
学生時代に専攻していた等で法令の知識があれば行政書士が取り組みやすいです。一方でFPは3級から基礎知識を学習できるので、お金に興味があれば進めやすい傾向が見られます。
結論として、独学の難度や到達までの時間は行政書士の方が重くなりがちですが、FPは級ごとに段階的に進められるため、働きながらでも計画を立てやすい点がメリットです。
行政書士を取得してからFPを取るなら2級からでOK
行政書士資格を取得した方がFPを目指す場合、多くのケースで2級からの受験で十分です。理由は、行政書士の学習や業務で得た知識は、FP試験の3級の分野を網羅できている可能性が高いからです。行政書士試験での一般知識や、業務で取り扱う会計処理、自身の税務申告などお金に関する知識を必要とします。この経験は、FP試験で扱う「相続」「不動産」「税務」の分野に直結します。
FP2級の受験資格は以下のいずれかを満たす必要があります。
- FP3級合格
- AFP認定研修を修了
- 2年以上の実務経験
行政書士の資格だけでは受験できませんが、実務経験が2年以上あれば2級から挑戦可能です。実務経験の詳細については、日本FP協会のホームページを参照ください。
FP2級は学科試験と実技試験の両方に合格する必要がありますが、行政書士で培った論点整理力や読解力が大いに役立ちます。目安の学習時間は150〜300時間ですが、行政書士の実務経験があれば、100時間程度でも合格できる可能性が十分にあります。
基礎からじっくり勉強するなら3級からスタート
「金融やお金の知識にあまり自信がない」「数値や制度に触れる機会が少なかった」「実務経験が浅い」といった方には、FP3級から学習を始めるのが最も安心で効率的です。
FP3級は家計に関わる幅広い分野を学べる入門資格で、学習時間は30〜100時間が目安、合格率も40〜80％と高めです。ライフプラン、保険、年金、税金、不動産、相続といった基礎をまんべんなくカバーできるため、金融リテラシーを体系的に固める第一歩になります。
行政書士で培った法律文書の読解力があれば、FP試験にもスムーズに対応可能です。短期間での合格を狙いやすいだけでなく、3級を経ることで計算問題や資料読解に早い段階から慣れ、2級の実戦的な問題形式に自然に順応できます。3級の試験問題でも相続や不動産に関する出題がされるため、行政書士業務と関連づけて学んだ内容をすぐに実務相談へ活かせます。
結果として、3級→2級という段階的なルートは、理解の抜けを作らず着実に知識を積み上げられる学習法です。迷いなく次のステップへ進めるため、最終的なFP2級・1級の取得もスムーズになり、実務への応用力も格段に高まります。
私が使用した学習教材
私がFPを取得する際に使用した教材をご紹介します。行政書士試験を突破した方であれば、私の体感では3級と2級はあまり費用をかけずに取得できると思います。
ポチップ
ポチップ
さらに理解を深めるために、YouTubeを併用すると理解が深まります。私の場合は、上記のテキストと相性が良いホンダさんのチャンネルを良く見ていました。上記のテキストを使用しながら、過去問を３周程度すると合格レベルに近づきます。
まとめ：行政書士とFPのダブルライセンスは「相続業務」に強みあり！
行政書士とFPは、それぞれ「法律」と「お金」の専門家です。役割は異なりますが、掛け合わせることで業務の幅が広がり、相談から手続きまで一貫して対応できる体制が整います。特に、行政書士業務の中でも需要の高い相続・事業承継分野においては、FPの知識があるかどうかで提供できるサービスの質と信頼性が大きく変わります。本記事で示した内容は以下のとおりです。
- 行政書士とFPは補完関係にある：法務とファイナンスを組み合わせて顧客の課題を総合的に解決できる
- FPは行政書士業務の付加価値を高める：相続や資産形成、事業承継で長期的な顧客関係を築ける
- ダブルライセンスのメリット：業務の幅拡大、ワンストップ対応、信頼獲得、キャリアアップ、他資格連携
- 段階的に取り組める：行政書士がある方は2級から、基礎固めなら3級からのスタートがおすすめ
つまり、行政書士としての専門性にFPをプラスすることは、顧客から選ばれる専門家になるための最短ルートといえます。
今後さらに高まる相続需要を見据えるなら、今からFP取得に向けて一歩踏み出す価値は十分にあります。まずはテキストや過去問から取り組み、無理のない学習計画で挑戦してみてください。